「心に春が来た日は 赤いスイトピー」
これは松田聖子さんの代表曲「赤いスイトピー」(作詞:松本隆)の最後のフレーズだが、今の僕の心模様にぴったりだ。
僕は佐賀市に住む二十四歳の会社員。彼女が欲しいけど職場で出会う機会がなさそうなので出会い系に登録したのは三月初旬。見事に相手を見つけることができた。彼女は二十二歳の新人OLの愛美。今彼女と恋愛中だ。
僕は童貞だったし、性的にも奥手なので出会い系にはむいていないと思っていたけど、自分にふさわしい相手ってけっこういるもんだね。彼女も自分みたいな内気な女は出会い系に向いていないんじゃないかって言っていた。つまり似たもの同士が出会い系で巡り会ったことになる。
初対面のときは嬉しさと恥ずかしさでまともに話ができなかった。目と目が合ったらドキドキして言葉が出てこなくなったのを覚えている。
「ぼ、僕と付き合ってくれますか」
「わ、私でよかったら」
目が合うとお互い視線を下に落とす。まるで大昔の恋愛ドラマのひとコマみたいだけど、これは本当にあったことだ。出会い系で女性にアプローチするテクニックを解説しているサイトによくお目にかかるけど、そんなもの僕には必要ない。何もしなくても自然にくっついた。
愛美はぽっちゃり型で少し垂れ目なところが可愛い。もう愛おしくて愛おしくて、愛美というのはまるで僕がつけた名前のように思える。
「過去に彼女いたんですか?」
交際を始めて三週間ほどたった頃、愛美が心の中を覗くような視線でそんなことを聞いてきた。シャイで控えめなタイプだけに意外な質問だったけど、それだけ僕は好かれているのだと実感した。
「いないよ」
「本当にい?」
苦笑いのような含み笑いのような、女の子っぽい微笑。嘘だと思っている節がある。
半分は嘘だ。肉体関係にはならなかったけど、付き合っていた女性はいた。彼女は実は彼氏がいるのを隠していて、僕を弄んだ。僕にとっては思い出したくない暗い過去。彼女がいなかったのが半分は本当だと思っているのは、彼女のことを「彼女」だったと思っていないからだ。
「もしいたとしても、私と比較しないでね。私だけを見ていてね」
彼女と初セックスしたのは春の盛りだった。出会って二か月たっていた。
ベッドインしてすぐに僕は自分が童貞だと打ち明けた。そうしたら私も同じです、と小声で答えた。ぎこちなく、とても清らかなセックスだった。何をしているのかわからないまま挿入して射精。
「痛かった? ごめんね」
と処女をいたわる僕。
「痛くない。嬉しかった」
出会い系で素敵な恋人を見つけることは十分可能だよ。お前は運が良かったんだと言う人もいるだろうけど、好運なんて誰にだって訪れるもの。あまり深く考えないで飛び込んでみることだね。
でもひとつだけ言わせてもらうのなら、出会う季節は春のほうがいい。
春は恋の季節。出会いの季節。
心に春が来やすい。